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金沢地方裁判所 昭和31年(行)2号 判決 1957年4月26日

原告 辻博治 外九名

被告 七塚町町長

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告が訴外坂井五三吉外二十九名との間に昭和三十一年二月頃なした畑地三町九反七畝十一歩を買受ける旨の売買契約を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告等は、それぞれ肩書記載の住所地に居住する七塚町の住民であり、被告は、昭和三十年八月十六日公選されて以来同町々長の地位にあるものである。

二、被告は、昭和三十一年二月頃訴外坂井五三吉外二十九名との間に、七塚町中学校々舎建築用敷地として、同町遠塚ロの部四十三の甲、四十三の乙(合)他十四筆、同町浜北イの部十九の一他二十六筆の畑地、合計三町九反七畝十一歩を代金一歩四百三十円の割合で買受ける旨の売買契約を締結し、同年四月七塚町農業委員会の承認を得るに至つた。

三、しかしながら、地方公共団体において支出する経費については、地方公共団体の長が地方自治法第百七十九条、第百八十条の規定により専決できる場合を除き、すべて議会の議決を要するところ、被告は、右中学校建設に関する予算措置等について七塚町々会の適法な議決がないのにかかわらず、敢えて訴外坂井五三吉外二十九名との間に前記売買契約をなし且つ同人等にその手附金を交附したもので、右契約は明らかに違法若しくは無権限な契約の締結であるから取消さるべきである。

四、而して、右のような取消さるべき売買契約に基いて中学校敷地が買収されその工事が進捗するに至ると、建設費総額一億四百万円の出所がなく、将来原告等は、七塚として不法且つ不当な受益者負担金、若しくは特別負担金を賦課徴収されることが予想されるので、地方自治法第二百四十三条の二第一項、第五項の規定に基き同年四月二十三日被告に対し本訴の理由と同趣旨で監査の請求をしたが、被告は同年五月十日「監査の請求の結果についての通知」と題する書面で何ら違法の点がない旨回答してきた。よつて、原告等は同法同条第四項の規定に基いて右売買契約の取消を求めるべく本訴に及んだわけである。

被告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、請求原因第二項の事実中、売買契約の締結及び七塚町農業委員会の承認の各日時の点のみを否認するが、その余の事実は認める。右売買契約の締結は昭和三十一年四月、農業委員会の承認は同年五月十二日である。

三、請求原因第三項の事実は否認する。なお、被告が本件土地売買契約を締結するに至つた経緯は大要次のとおりで何ら違法ではない。即ち、現在七塚町には七塚中学校、外日角中学校の二つの中学校があるが、前者は同町木津部落所在の七塚、後者は同町外日角部落所在の外日角小学校に併設されていて、教育環境上よくなく、且つ近来生徒数が増加してきて狭隘となり、七塚町においては統合、独立中学校を新築することが長らくの懸案となつており、昭和三十年十月二十九日七塚町遠塚公民館において中学校建設委員会が開催され統合独立中学校の建設を発議するに至つた。同年十一月九日七塚町教育委員会においては右希望に答え統合独立中学校を設置すること同町字浜北部落と同遠塚部落の中間に位する適当な土地約一万坪にその敷地を設定すること及びその建築の実施については被告に委任することを決議したのである。次で七塚町町議会に於ても同年十一月三十一日の臨時町議会において、二十一名中の議員中十五名が出席し、その全員で昭和三十一年度から五年間の継続事業として町の中央部に中学校を新築する旨の議決がなされ、更に昭和三十一年三月十八日の臨時町議会において、右中学校々舎建設に関する(1)中学校建設事業費第一年度支弁経費三千万円の支出を含む七塚町昭和三十一年度歳入歳出予算案、(2)右建設事業の第一年度事業資金に充当するため一千万円以内の町債を起すことについての議案(3)右中学校々舎及び附属建物建築について之を昭和三十一年度から五ケ年の継続事業として完成するための継続費設定の議案、(4)右中学校敷地として同字遠塚、同浜北の中間地区に一万五千坪以内の土地を随意契約により取得するための財産取得及び購入契約の締結についての議案の四議案が各議決された。被告は昭和三十一年四月原告等主張の訴外人よりその主張の土地を中学校敷地として買受ける旨の契約をしたが、これは前記教育委員会並に町議会の各議決に基く適法且つ正当な職務行為である。

四、請求原因第四項の事実中、原告等が被告に対しその主張のように監査請求をなし、被告が之について回答したことは認めるがその余の事実は否認する。

(立証省略)

理由

請求原因第一項の事実及び本件土地売買契約の締結、農業委員会の承認の日時を除く同第二項の事実は当事者間に争いがない。

原告は昭和三十一年二月頃本件土地売買が為されたと主張するがこれを認むべき証拠なく成立に争のない甲第六、七号証によれば右売買は同年四月中に為されたと推認することができる。

原告等は、被告が町議会の適法な議決に基かないで右土地売買契約を締結したのは違法若しくは無権限な契約の締結である旨主張するに対し、被告は昭和三十一年三月十八日の七塚町臨時議会で右売買契約に関係する議案の議決があつたから何ら違法でない旨争つているからこの点について判断するに、証人山口久男、同内潟甚治、同表喜治の証言、被告本人の尋問の結果及び之により真正に成立したと認められる乙第四号証、同第十号証の一、三乃至九、同第二十五号証、同第二十八号証の一、二並びに成立に争いのない乙第一、第二、第五号証、同第六号証の一乃至三、同第七第八号証、同第十号証の二、十、同第十四乃至第二十四号証、同第二十七号証によると、次の事実が認められる。

即ち、七塚町は、木津、松浜、遠塚、浜北、秋浜、外日角及び白尾の七部落からなり、戸数約一千七百八十戸、人口約一万の地方公共団体であるが、現在七塚中学校、外日角中学校の二つの中学校があり、前者は同町木津所在の七塚小学校、後者は同町外日角所在の外日角小学校に併設されていて教育環境上よくなく、且つ年毎に就学生徒数が増加しているので狭隘となり、統合独立中学校の建設が長らくの懸案となつていたが昭和三十年十一月九日同町教育委員会において、教育委員会法第四十九条に基づき統合独立の中学校を設置すること、同町字浜北、同遠塚の中間に位する適当な場所約一万坪にその敷地を設定すること及び同法第五十四条の三により右学校の建築の実施を七塚町の町長である被告に委任する旨決議した。右敷地の場所について木津部落を除く同町の他の六部落の人が賛成したが木津部落の住民の大部分が反対してその実現を阻止する態度に出たところ被告は、木津部落の出身であつたが七塚町の将来のためにその実現を期し、同月二十一日の同町臨時議会に昭和三十一年度から五年間の継続事業として中学校の建設を行う件を提案した。当時同町議会は定員二十二名の議員中一名が欠員で、出身部落別は、松浜二名、遠塚二名、浜北二名、秋浜一名、外日角三名、白尾三名、木津八名であり議長[糸白]野理平(木津部落出身)、副議長山口久男(浜北部落出身)から構成されていたが、右臨時議会当日は木津部落出身議員中議長[糸白]野理平外一名が出席して他の六名が欠席し、結局出席議員十五名中十四名の賛成で右提案が可決された。次で被告は、昭和三十一年三月十八日の同町臨時議会において、右中学校建設に関する(1)中学校建設事業費第一年度の支弁経費三千万円の支出等を含む七塚町昭和三十一年度歳入歳出予算案(2)右建設事業の第一年度事業資金に充当するため一千万円以内の町債を起すことについての議案(3)右中学校々舎及び附属建物建築について之を昭和三十一年度から五年間の継続事業として完成するための継続費設定の議案(4)右中学校敷地として同町字遠塚、浜北地内に一万五千坪以内の土地を随意契約により取得するための財産取得及び購入契約の締結についての議案の四議案を提出したところ、右臨時議会当日には中学校の建設場所に反対である木津部落出身の議長[糸白]野理平外六名の議員が右各議案の議決阻止を企て、特に同議長が閉会時刻である午後四時近くになつても一向右議案の審理を進行しようとしなかつたので、同日午後三時四十三分頃議員内潟甚治外十二名が同議長に対し書面で時間延長の動議を提出したところ、同議長は当初之を無視して議事を進めようとしたので更に内潟甚治外九名より議長懲罰の動議が提出せられ右動議提出議員が懲罰動議に基く議長の退席を求めて騒いだので同議長は遂に退席し、続いて他の木津部落出身議員六名も議場より退場したこと、そこで同日午後三時五十一分頃副議長山口久男は議長[糸白]野理平が懲罰動議のため除斥されたものとして議長席に着いて審議を進め、議場に残つた議員十三名によつて会議時間延長及び議長に対し五日間の議会出席停止の懲罰を可決した上、前記四議案を十三名の全員賛成で議決した。被告は前記教育委員会の決議並びに議会の議決に基く職務の執行として同年四月中中学校の敷地とするための訴外坂井五三吉外二十九名との間に本件土地売買契約をしたのである。以上の認定事実に反する証人[糸白]野理平、同杉本義雄の証言、原告本人遠田時敏、同辻孝治の尋問の結果及び甲第三号証の記載は前掲各証拠に照らしにわかに信用できず、他に右認定事実を覆えすに足る証拠がない。

してみると、被告の本件土地売買契約の締結行為は適法であつて何ら町長としての職務執行の権限を超えるものでなく、原告の本訴請求は理由がないこと明かであるから之を棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 観田七郎 辻三雄 柳原嘉一)

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